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検事には著名人・本田宗一郎の息子を自白させたいという野心があった。さいたま地検にも「10億円の脱税」という久々に大きな事件を手がける高揚 感があった。ただ博俊は落ちない。心が折れて「自白」と受け取れなくもない調書にサインはしたが、「広川の提案に乗りはしたが脱税を指示した覚えはない」 という「直し」を入れ、結局否認。意地のぶつかり合いが、9ヵ月の長期勾留となった。
結果的にさいたま地検は恥をかいた。42回の公判が開かれたうえで、さいたま地裁の下山保男裁判長は「無罪判決」を下した。「有罪率99・9%」の刑事司法の常識が覆ったのだ。
しかし双方が控訴、検察側から新たな証拠や証人申請はなく、公判は博俊が裁判官質問を受けた1回だけだった。博俊弁護団に緊張が走る。裁判官質問は、「逆転有罪の際のセレモニー」ということがあるからだ。
杞憂ではなかった。東京高裁の田中康郎裁判長は博俊を再び地獄に突き落とした。「被告人を懲役2年に処する」—。おそらく博俊には、長い判決文を 読む裁判長が何を言っているかが理解できなかっただろう。判決文を読み返しても脱税する意図や意識があったとは書いていない。田中裁判長が言いたいのは、 「脱税の内容は把握していなかったものの、脱税の了承はしていた」という一点。そこを突き、「有罪率99・9%」の神話を守ったのだ。
後は最高裁に託すしかなかったが、憲法問題などに触れるものでない限り、最高裁が高裁判決を覆すことはない。無為の3年半、生殺しのような期間を 経て、ようやく服役。未決勾留が長いため仮釈放は早そうだが、来年4月12日の70歳の誕生日は刑務所で迎えることになりそうだ。